送電線点検の撮影を効率化|Matrice 400×H30TのLine Inspectionを実機検証
こんにちは、セキドで産業用ドローンの導入・運用支援を担当している鈴木です。
今回は、DJI JAPANおよび株式会社ミラテクドローンの協力のもと、実際の送電設備を使用し、DJI Matrice 400とZenmuse H30Tの「Line Inspection」を検証しました。

近年、送電設備の老朽化や保守点検の重要性が高まる一方、点検作業を担う人員の不足や、作業品質の均一化が課題となっています。
従来の送電線点検では、地上からの目視、ヘリコプターによる撮影、ドローンの手動飛行などが行われています。しかし、ドローンで送電線との距離を保ちながら一定の画角で撮影するには、機体の位置や進行方向を調整しながら、ズーム倍率やジンバル角度などを同時に操作する必要があります。撮影品質が操縦者の経験に左右されることも課題でした。
本記事では、実際の飛行状況や取得画像をもとに、Line Inspectionが送電線に沿った撮影をどのように支援するのかを紹介します。あわせて、設定時のポイントや運用上の注意点、Zenmuse L3によるLiDAR計測の結果も解説します。
送電線点検へのドローン導入を検討している方や、点検対象に適した機体・カメラの構成を確認したい方は、セキドまでご相談ください。
今回の検証で確認した3つのポイント

| 撮影条件をそろえやすい | 操作負担を軽減 | 周辺環境を3Dで把握 |
|---|---|---|
| 送電線に沿って一定の条件で飛行 | 機体・カメラ操作の負担を軽減 | 送電線と植生の位置関係を点群で確認 |
Line Inspectionを使用することで、送電線との距離、飛行速度、ズーム倍率などの撮影条件を統一しやすくなります。
また、H30Tによる設備の画像点検と、L3による周辺環境の三次元計測を使い分けることで、設備状態と植生状況の両方を確認できます。
従来の送電線点検で生じていた課題
送電線点検では、設備の異常や部品の劣化を確認するため、点検対象を識別できる高精細な画像が必要です。主な点検方法として、地上からの目視、ヘリコプターによる巡視、ドローンの手動飛行が挙げられます。
地上からの目視点検
地上から双眼鏡などを使用して設備を確認する方法です。
機材を比較的簡単に準備できる一方、設備までの距離や確認角度によっては、碍子や接続部などの細部を確認しにくい場合があります。
ヘリコプターによる巡視
長距離かつ広範囲の送電設備を巡視する場合に適しています。
ただし、数径間や特定箇所のみを詳細に確認する用途では、点検規模に対して運用負担が大きくなる場合があります。
ドローンの手動飛行による撮影
ドローンは、地上から確認しにくい場所へ接近し、必要な角度から撮影できます。
一方、送電線との距離を維持しながら、機体の進行方向、ジンバル角度、ズーム倍率、フォーカスを同時に調整する必要があります。長距離を一定の画角で撮影し続けるには操縦技術が求められ、担当者によって撮影条件や取得画像に差が生じることも課題でした。
Zenmuse H30TのLine Inspectionとは
Line Inspectionは、DJI Matrice 400とZenmuse H30シリーズを組み合わせ、送電線に沿った飛行と撮影を支援する機能です。
今回の検証では、DJI Pilot 2上で送電線を認識させた後、飛行速度、ズーム倍率、ジンバル角度、送電線との距離などを設定し、送電線に沿って横方向から飛行・撮影しました。
機体とカメラの細かな操作を自動飛行で補助することで、操縦者は機体周辺の安全確認と取得映像の確認に集中しやすくなります。
Matrice 400では、2026年5月28日のファームウェア更新でZenmuse H30シリーズ使用時のLine Inspectionが追加されました。2026年6月16日の更新では、6分割導体と8分割導体の選択にも対応しています。利用前には、Matrice 400、送信機、Zenmuse H30Tを対応ファームウェアへ更新してください。DJIは、Matrice 400でH30シリーズを使用する場合、ペイロードをSDカードで先に更新するよう案内しています。
H30TのLine InspectionとL3のPower Line Followの違い
H30TとL3では、使用する機能と取得するデータが異なります。
| 使用機材 | 機能 | 主な取得データ | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Zenmuse H30 | Line Inspection | 可視光画像 | 碍子、ボルト、接続部などの設備点検 |
| Zenmuse H30T | Line Inspection | 可視光画像 ・熱画像 | 設備の外観点検・温度分布の確認 |
| Zenmuse L2/L3 | Power Line Follow | 三次元点群 ・RGB画像 | 送電線、鉄塔、地形、植生の計測 |
Zenmuse L3のPower Line Followは、10kV以上の送電線・配電線向けに設計されています。低圧線や通信ケーブルなど、対象によっては認識できない場合があります。
今回の検証内容
DJI JAPANおよび株式会社ミラテクドローンの協力のもと、実際の送電設備で実施した今回の検証では、DJI Matrice 400にZenmuse H30Tを搭載し、Line Inspectionによる送電線の認識、送電線に沿った飛行、撮影条件の設定、取得画像の品質を確認しています。
あわせて、Zenmuse L3のPower Line Followを使用し、送電線、鉄塔、周辺地形、植生を三次元点群として取得しました。
主な検証項目は以下のとおりです。
- ・送電線の認識と、送電線に沿った飛行の動作
- ・送電線との距離設定と、設定後の飛行動作
- ・飛行速度、ズーム倍率、ジンバル角度の設定
- ・碍子、ボルト・ナット、電線接続部などの視認性
- ・撮影方向による取得画像の違い
- ・撮影データの整理と確認方法
- ・Zenmuse L3による送電線、鉄塔、植生の点群取得

検証に使用したドローンとカメラ
DJI Matrice 400
DJI Matrice 400は、最大飛行時間59分、最大6kgのペイロードに対応する産業用ドローンプラットフォームです。
回転式LiDARとミリ波レーダーを搭載し、送電線レベルの障害物検知に対応しています。送電線点検、測量、緊急対応など、複数の用途に対応します。
※飛行時間や搭載可能重量は、使用機材、風速、高度、飛行方法などの条件によって変動します。
DJI Zenmuse H30T
Zenmuse H30Tは、以下の5つのモジュールを搭載したマルチセンサーカメラです。
- ・ズームカメラ
- ・広角カメラ
- ・赤外線サーマルカメラ
- ・レーザー距離計
- ・NIR補助ライト
ズームカメラは有効画素数40MPで、最大34倍の光学ズームと最大400倍のデジタルズームに対応しています。送電線点検では、設備との距離を確保しながら、碍子や電線接続部などを詳細に撮影する用途で活用できます。
Line Inspectionによる撮影の流れ
1. DJI Pilot 2で対象の送電線を確認する
機体を点検対象付近まで飛行させ、送信機画面上で対象となる送電線を確認します。周辺の電線、鉄塔、樹木、構造物なども確認し、自動飛行を開始できる環境であることを確認します。

2. 対象の送電線と飛行方向を指定する
DJI Pilot 2上で対象となる送電線を認識させ、飛行方向を設定します。往路と復路で異なる方向から撮影する場合は、点検対象となる部位が見える角度を事前に確認します。

3. 飛行・撮影条件を設定する
点検対象や現場環境に合わせて、送電線との距離、飛行速度、ズーム倍率、ジンバル角度などを設定します。高倍率で撮影する場合は、機体の動きや光量が画像品質へ影響するため、飛行速度とカメラ設定を合わせて調整します。

4. 送電線に沿って飛行・撮影する
設定内容を確認し、Line Inspectionによる飛行と撮影を開始します。飛行中も、操縦者が機体と周辺環境を監視します。
5. 取得画像を確認する
飛行後に、画像のブレ、フォーカス、露出、点検対象の視認性を確認します。必要な部位が記録できていない場合は、飛行条件やカメラ設定を調整して再撮影します。
Zenmuse H30Tによる送電線点検の検証結果
一定の方向と画角で撮影しやすい
送電線との距離、飛行速度、ズーム倍率、ジンバル角度を設定することで、一定の方向と画角で画像を取得しやすいことを確認しました。
手動飛行では、機体の位置やカメラの向きを継続的に調整する必要があります。Line Inspectionを使用することで、撮影条件をそろえながら飛行できるため、担当者による画像のばらつきを抑えやすくなります。
同じ設備を定期的に撮影する場合は、撮影方向や倍率をそろえることで、過去画像と比較する際の条件を統一しやすくなります。

送電設備の細部を画像で確認
今回取得した静止画では、送電設備の細部を確認できる画質が得られました。
送電線に沿って一定の方向から撮影できるため、設備全体の状態を記録しながら、確認したい箇所を拡大して見ることができます。
ただし、実際の見え方は、撮影距離、ズーム倍率、光量、機体の揺れなどによって変わります。現場環境や確認対象に合わせて、撮影条件を調整することが重要です。


操縦者の操作負担を軽減できる
手動飛行では、送電線との距離、機体の進行方向、ジンバル角度、ズーム倍率を同時に調整する必要があります。
Line Inspectionでは、送電線に沿った飛行を機体が補助するため、操縦者は周辺の安全確認と取得映像の確認に集中しやすくなりました。
ただし、自動飛行中も操縦者による監視と安全確認は必要です。
撮影方向の事前設計が重要
送電設備は、撮影方向によって部材の重なり方や光の当たり方が変わります。
片側からの撮影だけでは確認しにくい部位が生じるため、必要に応じて往路と復路で撮影方向を変更するなど、事前に撮影計画を設計する必要があります。
今回の検証でも、撮影方向を適切に設定することで、確認対象を一定の角度から記録しやすくなることを確認しました。
取得データの整理ルールも重要
電圧区分、鉄塔番号、飛行方向などを含む命名ルールを設定することで、点検後のデータ確認を行いやすくなります。
撮影だけでなく、取得データの命名方法や保存単位を事前に決めておくことが、点検業務全体の効率化につながります。
検証後に得られた評価と意見
取得画像の品質
今回取得した画像については、実運用への活用を検討できる画質との評価を得ました。
特に、異常が疑われる箇所や、確認が必要な部位を重点的に撮影する用途では、ドローンで対象へ接近し、高倍率で記録できる点にメリットがあるとの意見がありました。
一方、すべての現場で同じ設定を使用できるわけではありません。対象設備、撮影距離、光量、風速などに応じた調整が必要です。
ドローンとヘリコプターの使い分け
点検範囲によって、適した手段は異なります。数径間の点検や、異常が疑われる箇所の詳細確認では、ドローンを使用することで必要な範囲を集中的に撮影できます。
一方、長距離かつ広範囲の巡視では、ヘリコプターが適している場合があります。
費用についても単純には比較できず、点検範囲、移動距離、必要な人員、取得する成果品などを含めて判断する必要があります。
ドローンですべての点検を置き換えるのではなく、点検目的に応じて地上点検、ヘリコプター、ドローンを使い分ける運用が現実的です。
今後の実運用に向けた課題
検証後には、飛行規制など制度面への対応が課題として挙げられたほか、AIによる異常判定との連携に期待する意見がありました。AIによる異常判定を導入する場合も、設備ごとの判定基準を定め、人による確認と組み合わせる運用が必要です。
Zenmuse L3による送電線フォロー計測も実施

今回の検証では、H30Tによる可視光点検に加え、Zenmuse L3のPower Line Followを使用したLiDAR計測も実施しました。
Zenmuse L3は、長距離LiDAR、デュアル1億画素RGBマッピングカメラ、高精度POSシステムを搭載した航空LiDARシステムです。
送電線・鉄塔・植生を三次元点群として取得
LiDARで送電線周辺を計測することで、以下の対象を三次元点群として取得できます。
- ・送電線
- ・鉄塔
- ・周辺地形
- ・樹木
- ・下層植生
可視光画像では奥行きや位置関係を判断しにくい場合がありますが、点群データでは、複数の方向から送電線と周辺環境を確認できます。
送電線と樹木の位置関係を確認
点群データでは、送電線と樹木の位置関係を三次元空間上で確認できます。樹木がどの方向から送電線へ接近しているのかを視覚的に把握できるため、現地確認が必要な場所や、伐採を検討する範囲を抽出するための判断材料として活用できます。
保守作業や伐採計画の基礎資料として活用
周辺地形と植生を同時に取得することで、保守作業や伐採計画を検討する際の基礎資料としての活用が期待できます。
可視光画像と現地確認だけでは把握しにくかった内容についても、点群データを併用することで、送電線と周辺地形・植生の位置関係を三次元で確認しやすくなります。
関連記事:Zenmuse L2の送電線フォローモード検証を見る
可視光点検とLiDAR計測を組み合わせる
Zenmuse H30Tは、碍子や電線接続部など、設備の外観や特定部位を可視光画像・熱画像で確認する用途に適しています。
Zenmuse L3は、送電線、鉄塔、地形、植生を三次元点群として取得し、設備と周辺環境の位置関係を把握する用途に適しています。
両者を組み合わせることで、設備の状態と周辺環境を異なるデータから確認できます。
送電線点検への導入前に確認すべき項目
Line InspectionやPower Line Followを実際の送電線点検へ導入する場合は、以下の項目を確認する必要があります。
- ・点検対象となる設備や部位
- ・必要な画像解像度
- ・対象設備との距離
- ・必要なズーム倍率
- ・撮影方向
- ・飛行経路上の交差線や障害物
- ・風速、光量、逆光などの撮影条件
- ・飛行方法や飛行場所に応じた許可・承認の要否
- ・取得画像の保存・整理方法
- ・既存の点検方法との役割分担
機体やカメラの性能だけでなく、点検基準や必要な成果品から運用方法を設計することが重要です。
検証まとめ
今回の検証では、DJI Matrice 400とZenmuse H30TのLine Inspectionを使用することで、送電線に沿って一定の条件で飛行し、点検対象となる部位を画像として記録できることを確認しました。
手動飛行と比べて撮影方向や画角をそろえやすく、機体とカメラを同時に操作する操縦者の負担軽減にもつながります。
一方、安定した画像を取得するには、現場環境に合わせて以下の項目を調整する必要があります。
- ・飛行速度
- ・送電線との距離
- ・ズーム倍率
- ・ジンバル角度
- ・露出
- ・フォーカス
さらに、Zenmuse L3によるLiDAR計測を組み合わせることで、送電線や鉄塔だけでなく、周辺の地形や植生を三次元点群として取得できました。
H30Tによる設備の画像点検と、L3による周辺環境の三次元計測を使い分けることで、送電設備の維持管理に必要な情報を効率的に収集できます。
よくある質問
Q:Line InspectionとPower Line Followの違いは何ですか
A:Line Inspectionは、Zenmuse H30シリーズを使用し、可視光画像による送電線点検を支援する機能です。Zenmuse H30Tでは、熱画像も取得できます。Power Line Followは、Zenmuse L2/L3を使用し、送電線に沿ってLiDAR計測を行う機能です。
Q:ドローンだけで送電線点検を完了できますか
A:点検範囲や確認項目によって異なります。特定箇所の詳細確認にはドローンが適していますが、長距離巡視や接触を伴う確認など、ヘリコプターや地上作業が適している工程もあります。
Q:Zenmuse H30Tでは何を確認できますか
A:碍子、ボルト・ナット、電線接続部などを可視光カメラで撮影できます。赤外線サーマルカメラを使用することで、設備の温度分布も確認できます。実際に識別できる範囲は、撮影距離、ズーム倍率、光量、機体の動きなどによって変わります。
Q:Zenmuse L3では送電線と樹木の位置関係を確認できますか
A:送電線、鉄塔、地形、植生を点群として取得することで、三次元空間上で位置関係を確認できます。距離を評価する場合は、必要な精度に応じてデータの処理方法や計測条件を検討する必要があります。
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